1.中国近世の江南水辺都市(市鎮)において展開した都市施設-水路、街路、城壁・城門、水門、橋梁、波止場、広場、官庁、宗教建造物、警備処など-の形態・配置の基本的性格と歴史的背景および発達過程を総合的に理解することを目的とした。 2.そのため具体的には地理的条件、歴史的沿革、都市機能において典型性をもち、かつ対蹠的であった蘇州と嘉定をとりあげ、その都市施設の配置状態、造築経過を整理し、江南水辺都市としての共通性と、それぞれの固有性を考察した。 3.加えて中国中世、最大の海港、劉家港(劉河鎮)についても、13世紀から15世紀の至る形成から衰退の全過程、およびその基本性質の変遷-漕運港から商港へ、さらに軍港へ-を追跡し、近世以前の江南水辺都市の典型的事例を観察した。 4.また江南水辺都市施設、空間の配置・配列と、中国固有の環境理論-風水説との関連性を嘉定を事例として追究し、山岳をもたない江南水辺都市において風水説がどのような形態をとって具体化させられていたかを、始めて解明した。 その他、17世紀後半以降、江南水辺都市が大きく発達した最大要因が城壁・城門をもたない市鎮の開放性・自由往来性と、それと相い矛盾する住民の安全性・防御性との両立あるいは調和にあったとする観点から、江南水辺都市水路出入口に石造アーチ橋とともに設置されていた汎(水上警備処)に着目し、その形態、種類、活動内容、歴史的制度的背景などについて考察した。これは経済的社会的機能にのみ傾斜していた江南水辺都市研究に、新しい考察局面を提起したものとして注目すべき成果となっている。
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