本年度の研究計画は、できるだけ多くの文書の解読作業に重点をおくことであった。この文書群の中から、主として「証書」と分類されたものの解読を行った。その結果、これらの証書類は、個人の財産の何らかの方法による処分に関するものが大半を占めていることが分かった。とりわけ注目したのは、死亡した人々の財産の処分、すなわち、遺産相続を記した文書である。そして、遺産相続が具体的にどのようなプロセスをへて行われたのかを大まかに明らかにした。 財産の処分方法は、次のとおりである。(1)遺言書Wasayaによるもの:個人は任意に遺言書を作成することができたが、ムスリムの場合は財産の3分の1を超えないで、法定相続人以外に、個人や慈善のために相続をすることが可能であった。(2)財産証書によるもの:財産を残さなかった場合は、財産証書を作成して財産処分を行うことが可能であった。この証書作成の目的は、相続人が相続分を確実に受け取るためであり、また、相続人のいない財産の目録を作成することにあった。この財産は国庫Bayt al-Malに帰属した。したがって、この証書作成の際には、しばしば国庫や復帰財産庁Diwan-al-Mawarth al-Hashriyaの役人が立ち会っている。この証書の作成は、遺言書と違って任意のものではなかった。(3)両者の組み合わせによるもの。 修道院文書のうち、252番、275番の文書からはマムルーク朝時代の遺産相続がこのようなプロセスをへて行われたことがわかった。
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