2000年3月に韓国モンゴル学会主催韓国モンゴル国際学術大会に招かれ、ソウルで「現代モンゴルの牧畜」という講演を行い、5月に正式報告書掲載用に「モンゴルの牧畜-伝統と改革」と題する論文をまとめた。明らかにした内容は次の通りである。内蒙古とモンゴルで1950年代末から牧民を協同組合に組織し牧畜の集団化が行われ、在来羊のメリノー系細毛羊への改良が試みられ、人工授精施設の設置、乾草の刈り取りと貯蔵、家畜小屋の建造などが行われた。試みはモンゴル国では失敗したが、内蒙古では成果をあげた。その後内蒙古とモンゴルの協同組合は相次いで解体されたが、内蒙古における品種改良は、牧畜地帯で低迷しているものの、半農半牧地帯では引き続き進展している。品種改良が牧畜地帯で低迷しているのは、そこでは日帰り放牧の放牧移動の距離が長いなど、モンゴルの伝統的な牧畜の方法に依拠する点が多く、細毛羊が適応し難いことなどの理由に基づく。 2000年8月に東北大学東北アジア研究センターで開かれたシンポジウムで「モンゴル遊牧民の牧地利用について」という報告をした。これには内蒙古フルンボイル盟とモンゴル国に関する文献調査と現地調査の成果を一部まとめて、とくにシネバルガ左旗の第2次大戦以前の伝統的な遊牧の季節的移動が驚くほど頻繁で、移動距離も長大であることを文献資料から明らかにし、そのような移動を行っていた理由を、現在モンゴル国に在住するシネバルガ左旗出身の牧民に対する調査から明らかにしたものである。これによって、モンゴルの遊牧の本質の一部を明らかにすることができた。 これ以外に、今年度は、呼倫貝爾盟の文献調査と実態調査に基づいて、伝統的牧畜から現代の牧畜への変化の状況を跡付け、近現代内モンゴル牧畜社会の一端を明らかにした。
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