研究課題に基づいて、(1)国内外の図書館やアーカイヴスにおいて文献・資料を調査し収集した。(2)収集した文献・資料の書誌情報をデータベースに登録し、データベースを充実させた。(3)モンゴル人数名から牧畜に関する聞き取り調査をし、また調査冊子を内モンゴルの数地域に配布して記入後回収して、それらの地域における牧畜の実態調査をした。(4)収集した文献類を分析して、日本が東モンゴルで行った調査やフルンボイルで行った牧畜調査の実像を追究した。(5)収集した資料を使って、内モンゴルとモンゴルにおける伝統的牧畜の改革のために行われた羊の品種改良や、フルンボイル盟シネバルガ左旗の戦前における伝統的遊牧の季節的移動等の問題を分析し、研究成果を発表した。(6)研究代表者が収集した各種資料に基づいて、中国内モンゴル東北部の一地点の20世紀におけるモンゴルの牧畜の変化を詳細に追跡し分析した『エヴェンキ族自治旗イミン・ソムのオールド族の牧畜』と題した研究成果報告書をまとめた。戦前オールド族は、伝統的牧畜に欧米型畜産の影響を受けはじめ、戦後社会主義中国による集団経営牧畜を経験し、1980年代になると牧畜の個人経営と家畜私有に復したが、新たに牧地が牧戸に分配されるという前例ない改革が実施されたこともあって、遊牧の定着化が進行し、また人口増や過度の家畜増による牧地の退化という事態を迎え、遊牧が消滅する危機を迎えるに至った。このように近現代内モンゴルの牧畜に生じた変化の流れ全体をはじめて追究した。今後の内モンゴルの牧畜および牧畜社会の歴史的研究の基礎を固めたつもりである。
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