研究概要 |
漢代文書行政の実態解明を目的とする本研究は、中国西北辺境出土の簡牘を主要な材料として用いたため、研究の開始に当たって出土簡牘全件のカード化が必要となる。今年度は、大英図書館所蔵の敦煌漢簡、および1970年代に中国甘粛省で発掘されたいわゆる新敦煌漢簡全件約2,500点、さらに1930年代に発掘されたいわゆる居延旧簡約10,000件について、図版冊を切り抜きカード化する作業と、図版を本に釈文を再確認する作業を終了した。これを利用して、まず件数の少ない敦煌漢簡を対象に官衙間で送付される官文書を集成し、それが発掘地点で作成されたものか、あるいは送付されてきた現物か、という問題の検討に着手した。とくに新敦煌漢簡は、出土遺址の性格をめぐってなお定説のない状態であるが、出土官文書から見る限り、単一の官街が終始存在したのではなく、レベルの異なる官衝の併置、あるいは時代による官衙の変化を想定せざるを得ないという結論を得た。この知見は、大英図書館所蔵敦煌漢簡の出土遺址に関してもただちに応用できるものである。 なお、簡牘画像データの集積は現在敦煌漢簡に関してほぼ終了したが、大英図書館でのレビューによって、もとにした図版自体に問題があり、赤外線スコープ等の利用によって一層鮮明なデータを入手できることが判明したため、一部手直しの必要が生じた。さらに大英図書館が進めているスタイン・コレクションのデータベース化プロジェクトに参画することが裨益多大であるため、それに対応するフォーマットへの組み替えを構想中である。 次年度は敦煌での文書作成の実態をふまえて、資料の多い居延出土簡牘に重点を移し、ルーテインワークとしての官衙間の文書送付システムの全般的解明に着手する。
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