本年度(1998年度)は、三ヶ年計画の初年度として事例の豊富化のため、中国近世制度史をはじめとする関連図書(学術書)・刊行史料の収集と、その初歩的整理を実施した。それと並行して、本研究の主たる問題関心の一つである「宋代地域社会における荒政のあり方を、州県官と在地有力者との日常的な接触・関係の中で把握する」という点を深めるために、『清明集』人品門の詳細な読解・分析を実施した。 従来、私は宋代社会における宗族的紐帯関係を重視しない立場をとってきた。しかし、この読解・分析を通じて、日本語の語感からイメージされる制度化された「宗族」・「族」といった形式とは異なる血縁のあり方を具体的に知ることができた。つまり、血縁とは所与ではなく、むしろ新たな人間関係構築のための“あとづけの理由"として利用されるという事例を得られた。 これは、本研究の題目にもある「人間関係」というキーワードを考察する上で重要な示唆であった。ある意味では、これは研究の障害である。つまり、“関係"を研究する際に、少なくとも宋代中国社会においては、何かリジッドな手がかりを前提とすることはできず、より曖昧な関係性や方向性といった形での把握しかあり得ないことを意味するからである。 しかし、これを研究上のチャレンジとして受けとめて、近年宋代史研究で注目されている「ネットワーク理論」なども取り入れながら、来年度以降の研究を進めていきたい。そして、この課題は特定のコアをもたない社会と国家の政策的コミットとの関わりを探究するという点では、本研究の問題意識とも合致するものであろう。 如上の課題は、本年度の実施内容単独で成果の公表を行うことはあまり意味を成さないと考え、来年度によりまとまった形で中間的な成果を公表することを予定している。
|