本年度(1999年度)は、初年度に引き続き事例の豊富化のための中国近世制度史・社会史等の関連図書(学術書)・刊行史料の収集・整理を実施するとともに、宋代地域社会における荒政のあり方を州県官と在地有力者との日常的な接触・関係の中で把握するために実施していた『清明集』人品門の解読作業の成果の一部を共訳書の形で公表した。これは本年度交付申請書「研究の目的」の(2)として示した課題についての考察をすすめるための、重要な材料となった。飽くまでも「不正行為」の背景として指摘されているという点は注意を要するとしても、地方官・胥吏の在地の有力者たちとの人間関係の実態描写として貴重な事例である。 これはより直接的には、来年度に向けて分析を進めつつある朱熹の「唐仲友弾劾状」六則の分析・理解の比較検討材料として、有用である。つまり、朱熹が指弾している台州知事・唐仲友の汚職が赴任先(台州)での不正にとどまらず、出身地(金華)の実家との関わりの中でより広がりをもって行われていた点と比較すれば、汚職の主体の社会的地位と「人間関係」の内実との間にある種の階層性をともなった相関関係が存在する、との仮説を与えてくれたのである。 現時点での考察はいまだ仮説的段階でしかないが、来年度の具体的検討事項の絞り込み、あるいは研究の集約への方向性は獲得された。
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