本年度(2000年度)は、(1)初年度以来の事例の豊富化のため関連図書(学術書)・刊行史料の収集・整理を実施するとともに、(2)宋代地域社会における荒政のあり方を州県官と在地有力者との日常的な接触・関係の中で把握するために実施していた『清明集』人品門の解読作業引き続き実施した(来年中公表予定)。これらは本年度交付申請書「研究の目的」欄に示した課題に対応する重要な作業であった。 昨年度実績報告書で触れた朱熹の「唐仲友弾劾状」六則を軸とする分析作業についても、成果公表が年度内に間に合わなかった(来年度中公表予定)が、現時点での結論を概括しておきたい。朱熹が弾劾する台州知事・唐仲友の汚職は任地(台州)・出身地(金華)にまたがる、姻戚関係・係累を主たるネットワークとして展開されており、如上の二つの作業との比較・対照によって、このような図式は宋代官僚社会を通じてある程度の一般性をもつ現象でもあった、との理解を得る。ただ、これを単なる宋代官場の腐敗堕落、といった文脈で理解すべきではなく、血縁レベルでの人間関係の相互扶助的性格と国家大での統治(この場合は荒政)のより広い範囲での公平性尊重とが、台州という場(地域社会)で朱熹と唐仲友とに具現されて史料上に現れたものと解するべきであろう。 今回の研究では如上の人間関係的側面からの考察に重点をおいたため、個別台州の事情に即した考察に深みが欠けているとの課題が残されているが、この点については今後考察対象ケースをより豊富化する中で解決していきたい。
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