ビザンツ帝国における宦官の総合研究の二年目に当たる本年は、聖職者および修道士宦官に焦点を当てた。聖人列伝(ActaSanctorum)や年代記に記録されている聖職者宦官の数は多く、総主教だけでも八名を数えている。これら宦宮総主教をはじめとする諸宦官聖職者は、宮廷宦官と異なり、人々の崇敬の的であり、人間としての欲望を自ら絶った聖者として崇められている。また、同様の記録は、宦官修道土にも見られ、宦官聖職者と宦官修道士は、ともに人々から尊敬を受けていた。中世初期に建立された聖ラザロ修道院は、宦官修道士専用の修道院であったことが知られている。これら宦官聖職者や宦官修道士は、神に仕える特別な存在として人々から認められ、「宦官」である事は、宮廷宦官とは逆に、積極的に評価されたのである。かくして、ビザンツ帝国における宮廷宦官は、皇帝側近として一大権力を振う事ができたが、他方で人々から疎まれることが多かった。聖職者宦官や修道士宦官は、まさに宦官であるがゆえに、人々の崇敬の的となった。ビザンツ帝国における「宦官」は、こうしたアンビィブァレントな性格をもつ、特異な、まさに「ビザンツ」的な存在であった。
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