平成12年度の研究目標は、ビザンツ社会における宦官を、いわば宦官を使用する皇帝を初めとする支配者側からでなく、宦官自体からその存在理由を解明しようとする点にあった。奴隷、幼児、捕虜、罪人などが宦官となるために去勢手術を強制的に受けさせられた。この点、ビザンツ社会において、中国の宦官制度に見られるような自宮宦官が存在したが否かは、目下の研究では残念ながら不明である。強制的な去勢手術を受けさせられた宦官は、しかし、いったん宮廷に入り、しかるべき年齢に達すると最下位の侍従となる。すると、ユスティニアヌス法典12-5-4により、それまでの奴隷身分から解放され、自由身分を得ることが許された。この恩典は、以後継続する。また侍従身分の宦官は、司法上の特権、諸賦役の免除、宦官でありながら遺産相続を許されるなどの特権を得た。更には、首都総督、法務官以外のすべての官職に就くことが出来たし、社会的上昇の象徴である「寝室長官」として、皇帝の名前で国政を左右することも出来た。従って、宮廷宦官は、奴隷身分から出発しながらも、いったん宮廷に侍従として採用されれば、あとは自らの才覚と能力で、一般の社会に働く人々よりも大きく出世し、富と権力を得ることも出来た。ここに宦官制度をいわば内側から支える要因があったといえる。この結論を今年度は論文にまとめることを得た。
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