本年度は、先行研究の検討をしつつ、昨年度に引き続き日本国内において19世紀ドイツの社会経済史関連の史料を豊富に所蔵している、京都大学経済学部図書館、大阪市立大学経済学部図書館、及び大阪府立図書館にて当時の住宅問題関連の史料を調査・収集した。その結果、住宅問題に取り組んだ様々な立場の人々の発想や構想を窺える史料についてはほぼ網羅的に収集することができた。ただし、住宅事情の改善の具体的な試みである郊外邸宅地運動や住宅協同組合についての史料は日本では入手しえないことも明らかとなった。また、研究を進める中でドイツの住宅改革運動に大きな影響を与えたイギリスのそれについても検討を加える必要を感じた。そのため、3月上旬にベルリン(ドイツ)及びオックスフォード(イギリス)にて史料や研究調査をおこない、関連史料の収集をより体系的なものとするように努めた。以上のように中心的課題であるドイツ統一前後の郊外邸宅地運動の展開については先行研究の検討と史料調査がほぼ十分に進み、今後その史料の読解・整理・位置づけを本格的に進める段階に到達している。他方、その中心的な課題の意義付けをより鮮明にすべく、19世紀前半の時期について次の2つの課題の必要性を痛感するに至った。1つは、世紀中葉の住宅事情の再確認であり、そのために当時の都市住民の最下層の生活が窺える史料である、ハインリヒ・グルンホルツァー「フォークトラントにおける若きスイス人の経験」(1843年)の史料の解題と翻訳を試み公表した。二つめは、19世紀前半の都市社会を規定する都市の行政機構について、その人的構成の側面から解明を進めつつある。
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