本年度は、先行研究の検討をしつつ、昨年度に引き続き日本国内において19世紀ドイツの社会経済史関連の史料を豊富に所蔵している、京都大学経済学部図書館および大阪府立図書館にて当時の住宅問題関連の史料を調査・収集した。その結果、住宅問題に取り組んだ様々な立場の人々の発想や構想を窺える史料についてはほぼ網羅的に収集することができた。ただし、住宅事情改善の具体的な試みである郊外邸宅地運動や住宅協同組合についての史料は日本では入手しえないことも明らかとなった。当該テーマを進展させるためには、ドイツにおける史料調査が今後も必要であろう。また、研究を進める中でドイツの住宅改革運動に大きな影響を与えたイギリスやフランスのそれについても検討を加える必要を感じた。中心的課題であるドイツ統一前後の郊外邸宅地運動の展開については、前年度までの先行研究の検討と史料調査をふまえ、史料の読解・整理・位置づけを開始しつつある。他方、その中心的な課題の意義付けをより鮮明にすべく、次の3つのテーマに関する論文を公表、ないしは投稿準備中である。1つは1820年代に住宅問題が発現した段階での都市当局のそうした問題への対応をあつかったもの、2つめは住宅改革運動に関する1970年代以来の研究動向を整理したもの、そして最後に住宅問題の社会的位相を探るべく、近年注目を集めている資格社会論と住宅改革を比較したものである。さらに、前年度に引き続き、19世紀前半の都市社会を規定する都市の行政機構について、その人的構成の側面から解明を進めつつある。
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