平成10年度から12年度のかけての科学研究費補助金によって、筆者の今までの研究成果(19世紀中葉の住宅問題と住宅改革)を発展させるべく、ドイツ統一前後にベルリンで展開した郊外邸宅地建設運動の研究に着手することができた。二度にわたる海外出張と、大阪市立大学図書館、京都大学経済学部図書館、大阪府立図書館への史料調査によって、当該テーマに関する研究状況の確認と、史料事情の検討がほぼ完了し、とりわけリヒターフェルデという当時の郊外邸宅地の代表についての立ち入った研究をおこなっていく土台ができあがった。今後、そうした土台に基づいて進める研究成果を学会誌や紀要などに発表していく予定である。他方、以上の作業を通じて、次の3つの課題を追求する必要性を感じ、それらについて論文を公表ないしは投稿準備中である。1つは、世紀中葉の住宅をめぐる状況の再検討であり、そのために労働者住宅の探訪記の解題・翻訳を公表し、および住宅問題に対する当局の対応について考察した。2つめは、住宅問題を研究するための問題意識の明確化であり、そのために住宅改革と資格社会の比較をおこなった論文を公表し、また住宅改革研究の動向を整理している。そうした研究成果についても、順次公表していく予定である。3つめは、イギリスやフランスの住宅改革運動との比較史ないしは交流史であり、今後ドイツに関する研究を進めつつ、この両国や、他のヨーロッパ諸国の住宅事情や住宅改革の動向も視野に入れつつ、住宅改革運動を全ヨーロッパ的な視野で捉えることを強く認識するに至った。
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