縄文前期の関東地方・中部地方東部から、中部地方西部・関西地方にかけて実施された儀礼交換に関する総合的な仮説を検証するために、土器群構成の復元と土器の胎土分析、土器表面の残存塗膜分析を実施した。 土器群構成の復元の結果、在地製作深鉢形土器と在地製作模倣浅鉢形土器、搬入浅鉢形土器(漆塗り浅鉢形土器)、搬入深鉢形土器との数量的な関係として、3つの典型的な類型を抽出することに成功した。 中切上野パターン:在地製作深鉢80%前後、在地製作模倣浅鉢10%前後、搬入浅鉢10%前後 水汲パターン:在地製作深鉢70〜75%前後、在地製作模倣浅鉢20〜25%前後、搬入浅鉢5%前後 落合五郎パターン:在地製作深鉢65%前後、在地製作模倣浅鉢5%前後、搬入浅鉢15%前後、搬入深鉢15%前後 土器の胎土分析の結果、水汲パターンの遺跡では搬入浅鉢形土器の供給地が特定地域に限定されている可能性が高いことが明らかになった。これによって当初の総合的仮説に交換パートナーの存在を認める仮説を加えることができる。 残存塗膜分析の結果、中切上野パターンの遺跡には複数の地域で製作された模倣浅鉢形土器が集積されていた可能性が高いことが明らかになった。これによって総合的仮説に交換主体の間に役割の分担を認める仮説を加えることができる。 今後、以上の成果は胎土組成マップという形にまとめあげることが可能であり、それ基づいて総合的仮説『縄文時代前期の儀礼的交換体系』についてはさらに詳細かつ具体的な検討を重ねることによって、より統合化された総合的仮説を再構築できる。
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