本研究課題の目的は中国内蒙古自治区の各地で戦前に採集され、現在東京大学に所蔵されている、細石器資料の整理と分析、研究である。 ホロンバイル地区の細石器資料の総括的整理を進め、地点ごとの共通点、差異点を抽出し、後期旧石器時代末期以来の時期的な変遷を推定した。周辺のザバイカル地区とも連動した動きをしていたことが分かる。 シリンゴル地区の細石器では、同地区に属するドロンノール採集の細石器の整理作業をおこなった。ホロンバイルとは全く異なる、華北後期旧石器時代細石刃石器群の末裔としての石器群である。華北や遼西の新石器文化と関係する、歴史的な意味もまったく異なる、新らたに出現する石器群であることが明らかとなった。 以上のように、現在では同じ内蒙古自治体に属するホロンバイル地区とシリンゴル地区の細石器文化は同じく完新世まで下るが、その歴史的な背景がまったく異なる細石器文化であることが明らかとなった。 このような作業と平行して、周辺地域との比較研究も進めた。主な成果は次の二点である。 日本とのかかわりでは、日本列島と大陸に類似した石器製作技術が存在する場合にそれをどう理解するかについて、従来の伝播論的理解ではなく、行動論的に理解すると別の視野が開け、類似した条件下での類似した適応戦略との理解が可能であるとの見方を提出した。 また、ユーラシア全体を見渡した場合、押圧剥離による石刃剥離技術は特殊なものであり、西アジアに登場する時間が東アジアより新しいことから東アジアの細石刃石器群にその由来が求められるのではないかという視点を提起した。
|