長岡宮・平安宮の儀礼について、本研究では、地形から見た宮の立地や各殿舎間の配置について現地形から探る方法を採用した。その結果宮内に龍尾壇以外に4つの大きな段があり、宮内をほぼ横断する。特に内裏承明門の段差が顕著である。このことから平安宮の儀礼及び住空間の特徴は、朱雀門・応天門・会昌門→朝堂院、豊楽殿→大極殿院→承明門→紫宸殿・仁寿殿・承香殿・皇后宮・後宮域→神嘉殿とテラス毎に立地し、朱雀門から神嘉殿に至る「高さのヒエラルキー」が厳然と明瞭に構築されたことが窺える。一方長岡宮は、向日丘陵の東斜面を利用しているが、その北半は北西から南東に伸びる急斜面が多く、各官衙が立地するような適度な平場が限定される。その中で朝堂院は標高29mから32mの最大規模の緩斜面に立地し、整地など行い安定面を確保する。延暦8年に移った内裏は21〜23mの緩斜面にあり、大極殿域とは8mほどの比高差が生じ、空間序列は大極殿域が優位となる。その北には東西方向に開析谷があり、京造営当初の内裏が想定されるが、立地が不適切である。ただ朝堂院・大極殿院は、大極殿3後殿が最高部に位置し、ついで閤門、朝堂院と低くなり、一定の空間序列が窺える。長岡京東院は2本の河川に挟まれた三角形上の微高地に立地し、独立性が強い景観を有している。さらにこれらの地割を分析すると長岡宮では、大極殿前庭と内裏御在所の空間を確保するが、反面朝堂院や内裏正殿前庭が逆に狭まる矛盾がみられ、長岡京東院では内裏前庭を大きく拡大し、複数の殿舎で正殿を構成するなど、新たな空間構成を構築する様々な方法が採用されている。平安宮では東院の手法を発展させ、条坊制を従来の分散型から集積型へと移行することにより、宮を拡大することで大極殿院・朝堂院・内裏の矛盾の解消を図った。このように長岡宮と平安宮では、院・内裏・官衙の各殿舎配置まで異なり、両宮の相違点が指摘できる。
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