この研究は、歴史的中央語におけるどのような位相の言葉が方言形成に関わってきたかを明らかにしようとするものである。この目的のために、作業・考察を行なった。 (1)文献上の位相語リストの作成:歴史的に位相差の確認される語について、形態・意味、時代、位相の内容などを整理したリストを作成した。 (2)方言上での分布状況の調査:上記(1)で作成したリストの語が、方言上、どのような広がりを有するかを方言資料によって確認した。資料として国立国語研究所『日本言語地図』『方言文法全国地図』のほか、小学館『日本方言大辞典』『日本国語大辞典』を利用した。 (3)典型的事例についての研究:上記(1)(2)の作業で典型的と判断される語の事例について、文献と方言との対応関係と歴史的性格を分析した。まず、「こま(駒)」の位相について、それが「馬」の歌語として使用されるのは上層の書記言語であり、庶民の口頭言語では同語を「雄馬」の意味で使用していたことを明らかにした。また、助動詞「けり」について、方言の側のデータを調査によって補い、中央から地方への伝播の途上で生じる言語変容を、位相の観点を含めて考察した。 (4)報告書の作成:以上の検討の結果、方言形成の根源となる歴史的中央語の位相は上層階層の書記言語ではなく庶民階層の口頭言語であること、また、伝播によって中央での本来の形態・意味が庶民語の言語生活の中で文法化などを起こし変容していく傾向が強いことが明らかになった。以上をまとめて報告書を作成した。
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