本研究においては、3年間の前半は資料の調査により多くの力を注ぎ、後半はそこで得た知見をもととして、当初の目標達成に向けて資料の分析やデータの物語るものの考察に向かった。その経過を含めてその成果をまとめると、おおよそ次のようになる。 (1)中世漢字音研究書にはどのようなものがあるか、これを明らかにするために、日本各地の図書館や寺院・神社等を訪問し、漢字音研究書の発掘と調査を3年間に渡って行った。その結果、本3年度において、その数も量もきわめて膨大であること、したがって容易に調査を隅々まで行き渡らせることができないことなどが分かった。 (2)(1)に述べた資料の膨大さは、安易な心構えだけでは研究に進展が望めないことを意味しているものの、一方では今後におけるこの分野の研究のさらなる発展を約束するものであることを物語っていること、そして、それらの資料を吟味してみると、実際その中には中世漢字音研究史解明において有用な資料の数多くあることなどを知り得た。 (3)膨大かつ有用な資料がある中で、中世漢字音研究史上最重要課題の一つである朝鮮韻書の日本韻書への影響の有無について、ソウル大学校所蔵の『三韻声彙』と三重韻本『聚分韻略』との比較を通してみると、『聚分韻略』への『三韻彙』の影響はないと言ってよいこと、ただし、現段階においては皆無とは断言しきれないことなどを明らかにすることができた。 (4)上記貴重資料の公表・公刊の可能性を探った結果、近い将来におけるその実現に向けての基盤を得ることができた。
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