交付申請書にも述べたように、日本語には元来縦書きしかなく(一見右横書きに見えるものは1行1文字の縦書き)、横書きは右横書き、左横書きとも幕末に生じたのだが、その後、右横書き・左横書きの並存は戦後しばらくして右横書きが淘汰されるまで続いたのであった。 今年度は、特に、この右横書き・左横書き並存期における、縦書きと横書き、右横書きと左横書きの使い分けに注目し、調査済みの文献資料の整理をすすめるとともに、以下のような公的機関所蔵の非文献型資料の大コレクションについて調査・分析をおこなった。 ・明治期の個人的な手書きの資料 東北大学附属図書館漱石文庫蔵の夏目漱石自筆ノート類、旧蔵書書き入れなど ・昭和戦前期の非文献型印刷物(ちらし・商標・包装紙・チケット類など) 早稲田大学図書館西垣文庫蔵の貼込帖など ・明治〜昭和20年代の雑誌の表紙レイアウト 西宮市立中央図書館秋山コレクション蔵の雑誌創刊号コレクションなど その結果、本文:縦書き、脚注:横書きという文章や、右横書きの日本語文中に左横書きの欧語が含まれるものなど、従来知られていない奇妙な機能分担や混用のあり方が見いだされた。さらに次年度以降の博捜を必要とするが、これらの新しい知見により、日本語文字配列の歴史における右横書き・左横書き並存期の位置づけを考える際の貴重な手がかりが得られたと考える。
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