現在、子供の置かれた環境の大きな変化によって、児童文学の中の昔話研究は曲がり角にきており、また、農山漁村の変質に伴って、民俗学的研究の中の昔話研究も変化を余儀なくされている。しかし、そうした変革期であるからこそ、100年あまりに及ぶ研究について見通しを立てておく必要である。それを明らかにすることができれば、現在の状況が生まれた背景をわかるだけでなく、今後どのように受け継がれてゆくべきかという展望を見いだすための契機になるにちがいない。そう考えてこの総合的研究を立案してみた。ところが、実際に取り組みはじめてみると、テーマが大きすぎたので、ここ数年、集中的に調査を進めている佐々木喜善と柳田国男、そして、遠野の状況について明らかになってきたところからまとめることにした。報告書は、「佐々木喜善の昔話」「「昔話」の成立へ」「柳田国男の昔話研究」「語り部教室講演録」の4章からなる。どちらかと言えば、民俗学的研究の分析が主になったが、児童文学的研究に見える童話や民話との緊張関係を追究してある。
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