本年度の研究実績は、次の通りである。 (1) 『平家正節』の翻刻作業の開始。・・・平曲譜本の影印紹介はこれまでにかなり行われて来た。『正節』系統譜本については、原本と考えられている尾崎正忠所蔵本をはじめ、京都大学蔵『平曲正節』、東京大学蔵『平家正節』などである。しかし、影印であるため、曲節・墨譜と本文テキストとの関連など細かな検討には、かなり支障がある。そこで、私は平曲譜本の活字翻刻・墨譜の記号化による紹介などを計画。その準備として『平家物語』第一巻分の『平家正節』の翻刻を終了した。平成十一年度は第二巻分の翻刻を行う予定である。これは、わが平家琵琶の師匠・橋本敏江の演奏会と提携する作業でもあった。また、これら譜本翻刻にあわせて、各句(平家物語の各章段)の聴き所についての解説「平曲ノート」も執筆、第一巻分は終了している。 (2) 甲南女子大学所蔵本『平家物語』のよみがなについての知見。この本は譜本ではないが、よみがなが沢山付されている。このよみがなについて、複数の章段を見たところ(これも翻刻作業を伴っている)、平曲のよみぐせの影響をうけているのではないかと思われるものが多いようである。精査の必要がある。 (3) これも、譜本ではないが、国会図書館所蔵の古活字本『平家物語』(中院本)の句点の調査を行った。〈語り〉との関連の有無に関する調査で、貴重本であることと、こまかな作業を必要とするため今年度は五巻分を終了。次年度も継続の予定である。
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