本年度の研究実績は下記の通りである。 1)『平家正節』の翻刻作業の継続。…本年度は、『平家物語』巻第三分のおわりの三句(「行隆沙汰」「法皇御遷幸」「城南離宮」)および巻第四分の全句(「厳島御幸」から「三井寺炎上」まで)の19句を翻刻した。 2)甲南女子大学蔵『平家物語』の翻刻作業の継続。…本年度は、巻第二「徳大寺厳島詣」から巻第三「大塔建立」までの11章段を終了。 3)東京大学史料編纂所蔵島津家文書のうちの平曲・平家物語関係資料の調査。 これまで学界で知られていなかった資料が出現した。 イ、琵琶譜3点 ロ、平曲譜本11点 ハ、『平家物語』12冊および附属文書 本年度末になってからの情報により調査を開始したため、検討が十分ではないが、琵琶譜は江戸時代初期の資料として貴重、平曲譜本は江戸時代後期のものである。『平家物語』は基本の本文は「流布本」系であるようだが、伝承筆者が近衛信尹をはじめ名筆家であること、書写が江戸時代初期であること、平曲の秘伝に関わる本文の書き入れなどが認められ、平家物語の伝本研究上でも平曲と平家物語本文との関係を考えるうえでも貴重なものである。 4)研究成果報告書の作成。 これまでに調査を終えた譜本に関する目録および解題、さらに最近の平曲伝承資料に関する考察を添えて、冊子体の報告書を作成した。
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