本年度は、物語の本行本文と詳細な書入れ注記を併せ持つ『源氏物語』古写本として実践女子大学図書館所蔵の公条本の調査・分析を行った。その結果、公条本の本行本文は青表紙本系統に属し、しかも伝称の淵源の三条西家に関係する諸本、すなわち日本大学本・書陵部蔵三条西証本・肖柏本のグループと近接することが推測された。厖大な書入れ注記のうち、河海抄・花鳥余情など著名な古注釈書の引用の他に、「尭空説」が尭空(三条西実隆)の既成の注釈に見えない該本の独自性を示すこと、また「源語」が『源語類字抄』(1431成立)『続源語類字抄』(1639成立)と関連して、該本の書入れの下限を示す可能性のあることなどを明らかにした。 次年度は、公条本の調査を継続するとともに『覚勝院抄』の調査・分析を行い、併せて『源氏物語』が書入れ注記とともに享受された室町期の様態を分析し、本行本文・注記本文のデータ蓄積に着手したい。
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