本年度は、前年度に引き続き、物語の本行本文と詳細な書入れ注記を併せ持つ『源氏物語』古写本としての実践女子大学図書館所蔵公条本の翻刻・入力作業を行い、さらなる調査・分析に備えることとした。 また、本年度の主眼点として『覚勝院抄』の調査・分析を行った。当該書は室町中期までの多くの『源氏物語』注釈とは違って物語の本行本文が全文掲載され、厖大・詳細な書入れを有しているところに特徴があり、さらに冷泉家伝流の物語本文との校合の痕跡が発見された。室町後期の三条西家源氏学の最盛期に藤原定家の衣鉢を継ぐ冷泉家との交流が見出せることは、連歌師との交流とともに『源氏物語』の伝流史・注釈史・研究史において重要な1頁を占めるものとして評価しうる。『源氏物語』注釈に連歌師が主導した時期が室町時代にあったことは名高いが、彼らは青表紙原本の再建にも取り組んでおり、その成果が堂上の三条西家に流れる一方で、覚勝院のような僧侶の中にも浸透した事実が、上記の調査・分析によって明らかになった。 次年度は、平成10〜11年度にわたって調査した成果をひととおりまとめ、『覚勝院抄』の翻刻を含めて報告することにしたい。
|