源氏物語の本文研究と古注釈書の版本に関して、次のような成果を得ることができた。まず、本文については、青表紙本の大島本につき、各巻に見出しを付しながら、漢字仮名まじりと句読点を付した、全54巻の校訂本文を作成した。今後は、これが源氏物語読解の基本的な本文となっていくであろう。さらに、大島本・河内本(尾州家本)・別本(陽明文庫本・保坂本)の4本を忠実に翻刻した本文を作成し、これらはいずれも『CD-ROM角川古典大観源氏物語』(角川書店)に収録し、語彙などによって検索できるようにした。そのほか、共同作業として江戸期の絵入版本の本文を翻字し、これは『源氏物語(絵入)承応版本CD-ROM』(国文学研究資料館データベース古典コレクション)の基本本文とした。源氏物語の本文については、かねて継続している別本研究の一環として、『源氏物語別本集成』(巻九、若菜下〜柏木)としてまとめ、国立歴史民俗博物館蔵源氏物語別本(中山本)六帖は貴重典籍叢書として出版し、その本文の意義を明らかにした。 源氏物語の古注釈書については、中世における成立や享受の様相について論文をまとめたほか、中世文学会のシンポジウムで、中世文学史の中でどのように位置づければよいのか、享受史の構想論について基調報告をした。注釈書類の出版については、およそ150点の基本的な調査を終えたが、さらに異本や内容等について調査を継続している。同じ注釈書ながら版を重ね、増補されていく様相を、写本によって伝来する注釈書とともに、数年後には総合的な集成をはかる予定である。
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