江戸時代における流行歌謡はきわめて多岐にわたる。その中で前年度の研究テーマの中心に据えたのは、禅画に書き入れられた画賛の歌謡であった。このテーマに関しては本年度も引き続き探求し、花園大学禅文化研究所発行の季刊雑誌『禅文化』に「白隠慧鶴と近世歌謡(五)」と題する論考を発表し、一応の区切りをつけた。その論考中には白隠のみならず、山岡鉄舟の禅画画賛も取りあげることができた。禅画画賛の歌謡については、今後も資料の博捜を続けていきたい。 本年度は四年間にわたる本研究の中間的総括として、流行歌謡を含む江戸期歌謡に関する従来の研究成果を公表するとともに、新たな研究課題への取り組みを始めることを志した。研究成果は『近世歌謡の諸相と環境』(文部省科学研究費補助金<研究成果公開促進費>による)、『歌謡文学を学ぶ人のために』の二著によって発表した。特に、『近世歌謡の諸相と環境』においては、江戸期の代表的な流行歌謡のうち、木曽節・有馬節・ちんわん節・清十郎節などに関する資料を整理しつつ、部分的には具体的な分析検討をも行った。一方、『歌謡文学を学ぶ人のために』は編著であるが、江戸期の流行歌謡の諸相を、研究史の確認や具体的な歌謡注釈という形式で捉えることもできた。 本年度より本格的に着手した研究課題としては、流行歌謡をめぐる新たな絵画資料の発掘と位置づけがある。それらの資料は版本を中心にきわめて多くを数え、今日では古書籍として流通している。今年度はそのうちの数点を科学研究費補助金によって購入できた。その細かな検討は、来年度以降の課題である。
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