江戸時代の流行歌謡はきわめて多岐にわたり、その研究も学際的な内容が要求されている。歌謡である以上、歌詞を支える文学研究、曲節を支える音楽研究の両側面が基本にあることは言うまでもないが、それら以外にも民俗学的側面からの研究は不可欠であり、さらには当時の庶民文化として軌を一にした美術史、演劇史からの観点も重要である。それらの中で今年度特に力点を置いたのは、文学と美術との接点をめぐる学際的考察と江戸期流行歌謡の各句索引作成の試みであった。 まず、文学と美術をめぐる学際的研究であるが、具体的には歌謡詞章が画賛として書き込まれた絵画資料を検討し、位置付ける作業を通して行った。本年度は四年間にわたる本研究の第三年目に当たっていたので、来年度末の研究終了時までにその成果を書物として刊行できるような下準備を整えることを志し、ほぼ目的を達成することができた。これにかかわる論文として「表紙絵・下絵・挿絵と歌謡」(『大阪教育大学紀要(第I部門)』第49巻第2号<平成13年1月>)がある。 今年度の研究眼目に据えたもう一点は、江戸期流行歌謡の各句索引作成の試みである。これについては近世小唄調と称される7・7・7・5の歌形の歌謡の各句を、分割してカードに起こした。今後、一般研究者の利用に供するための努力をはかっていきたいと考えている。 次に、本研究の過去二年間にわたって中心に据えてきた研究課題である「禅僧と歌謡」についても、今年度も引き続き研究を進めた。昨年度までは江戸時代の臨済宗僧であった盤珪・白隠・仙〓について考察を重ねてきたが、今年度は曹洞宗僧として著名な良寛を取りあげ、「良寛と近世歌謡」(『学大国文』第44号<平成13年1月>)にまとめた。
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