本年度までの4年間にわたって、きわめて多岐に展開する江戸時代の流行歌謡を、主として資料面から位置付ける試みを推進してきた。本年度はその最後の総まとめの年に当っていたので、咋年度までに進めてきたいくつかの研究視点のそれぞれについて、発展的・総括的な論文をまとめることに力を注いだ。 まず、江戸期流行歌謡と禅僧とのかかわりについては、白隠慧鶴と並び称せられた臨済宗僧の古月禅材作の『いろは歌』(後に各地の盆踊歌となって『いろは口説』とも呼ばれた)について基礎的な調査を行い、「古月禅材『いろは歌』研究序説」(『日本アジア言語文化研究』第8号<平成13年3月>)のなかで報告した。 次に、絵画の画賛と歌謡をめぐっては、子ども向けの錦絵版画であるおもちゃ絵に摺り入れられた江戸期流行歌謡、伝承童謡(手毬歌・遊戯歌)、ことば遊び歌、説話・伝承歌、邦楽等を総合的に取りあげて位置付けた論文「おもちゃ絵の歌謡考」(『日本歌謡研究』第41号<平成13年12月>)を発表した。 また、平成10年度に着手した商人の売り口上の歌謡(物売り歌)についても、続編に当たる論文「物売り歌謡続考一飴売り歌謡を中心として-」(『学大国文』第45号<平成14年2月>)を発表した。 一方、以上のような新稿3編に至るまでの間に発表した江戸期を中心とした流行歌謡と絵画資料との関係を論じた論文を再構成して『絵の語る歌謡史』(和泉書院・平成13年10月)なる一書を刊行した。この書においては、おもちゃ絵、禅画、江戸期美人画、近世初期風俗画、風流踊絵、赤本の判じ物等に書き入れられた歌謡について指摘し、近世流行歌謡をめぐる環境と歴史を通史的かつ総合的に考察した。
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