本研究はさらなる資料の発掘と位置付けが切望される、江戸期の流行歌謡を取りあげて基礎的な作業を行うことを眼目とした。当初は諸図書館や文庫に収蔵されている未紹介の流行歌謡資料の閲覧調査を志し、『ありまぶし』や『潮来絶句』などの資料整理を行った。その後、禅僧の著作、商人の売り立ての歌謡、様々な絵画などを資料として、そのなかに書き入れられた江戸期流行歌謡を析出することに力を注いだ。 禅僧の著作に関しては、研究期間以前に既に考察した盤珪永琢、白隠慧鶴作の教訓歌謡研究を踏まえて、新たに大愚良寛・古月禅材の歌謡について、流行歌謡の観点から紹介と分析を行った。商人の売り立ての歌謡に関しては、江戸期に大量に残された商人の歌謡を、売り立ての歌謡(物売りの歌)と、商人の売り立てをもとに新たに歌謡に仕立て直した歌(売り声の歌)の2種に分類して考察した。絵画資料と歌謡との関係をめぐっては、禅画(白隠慧鶴・仙〓義梵)、おもちゃ絵、江戸期美人面、近世初期風俗画、風流踊絵、赤木の判じ物等の絵画資料を用いて位置付けを行った。 また、研究期間中、眼目に据えたもう一点は、江戸期流行歌謡の各句索引作成の試みであった。これについては近世小唄調と称される7・7・7・5の歌形の歌謡の各句を、分割してカードに起こした後、五十音順に配列し、清書原稿を作成した。現存は見直し検討作業を行っているが、近時の刊行を目指している。この書は歌謡研究者のみならず、近世文学研究者や一般の日本古典文学愛好家の待望の書であり、刊行が実現すれば座右に置かれるべきものである。今後しばらくは、刊行の実現に向けて引き続き努力をはかっていきたいと考えている。
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