本年度は、従来から考察してきた、『七夕』『あめわかみこ』『岩屋物語』を中心に、全国の図書館や大学等を廻って、挿絵と本文の関係について調査した(国内旅費)。そして、今年度は、新たに、『強盗鬼人』『楊貴妃物語』『おもかげ物語』等についても、伝本を入手し、挿絵と本文の一致不一致、相互影響関係等について、検討し、考察を加えた。また、中世小説・お伽草子に関する論文等を入手し、比較考察の材料とした(複写費)。 次に、ノートパソコンを設備備品費で購入し、調査先でも、本文の入力等が行えるようにした。その結果、以前購入したイメージスキャナーと接続して、挿絵を画像として取り込んだものを外出先でも確認できるようになった。 さらに、今までに調査した絵巻物・奈良絵本等の中で翻刻あるいは紹介するに足ると思われるものを論文として発表した(論文抜刷費)。その中で、オックスフォード大学所蔵『ひなつる』は類似した作品はあるものの、内容を詳しく検討した結果、新出作品と言えるものと推測され、中世小説(お伽草子)に一つ作品を加えられた。また、『ひなつる』の挿絵と本文の関連についても考察した。同じく『酒呑童子』は、手足を喪い瀕死の重傷にある若い女性が花に、鬼の首が木の根に変えられたりと、残酷な場面が差し障りの内容に変形させられているという興味深い挿絵が見られたので、その理由を考察した。これは、ブリューゲルの「幼児の虐殺」の絵で、兵士に刺し殺される幼児の代りに鵞鳥が描かれているのは、王侯貴族の子女が見るには残酷過ぎる場面が、強い刺激を与えるのを避けようとする教育的配慮から穏やかで無害な場面に変形させられたのと同様に、大名等の姫君の嫁入り本の可能性もある本書が、同様の配慮で挿絵を変更した可能性があることを指摘した。
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