研究概要 |
本年度は、最終年度であるので、今までの研究の総決算として、過去三ヵ年に不充分であった点を重点的に行うと共に、先方の都合で延期されていた外国での伝本の調査を行った。具体的には、中世小説『七夕』『あめわかみこ』『岩屋物語』『酒呑童子』『蓬菜物語』等を中心に、伝本の調査と、挿絵と本文の関係について考察した。 特に中心となった海外での伝本調査では、ドイツのベルリンにある国立東洋美術博物館並びにベルリン国立図書館において、貴重な絵巻や冊子本に多数接することが出来て、大きな収穫があった。中でも,中世小説『七夕』の最古の伝本と思われ、重要文化財級の価値が認められる『天稚彦草子』を手に執って閲覧出来たことは、念願の一つが果たせた点で大きな成果であった。勿論、国立東洋美術博物館の許可を得て、複製作成を依頼し、科研費の文献複写費で複製を入手したが、この挿絵のカラー写真による入手は長年手がけてきた中世小説『七夕』の研究において、大きな節目になるものであった。特に、「姫君天界彷徨の場面」は,挿絵・本文共に伝本による違いも大きく、星が擬人化されて、童子の姿で描かれており、興味深い場面なので、原本で調査し、さらに複製のカラー写真で確認して点検し、他の伝本と比較することで、新しい知見を得ることが出来、論文として発表した。 また、『七夕』に出てくる蛇への注目から、他の『道成寺物語』『俵藤太物語』『末広物語』等との比較から、中世小説の中に出てくる竜蛇の特徴について考察し、研究発表を行い、さらに論文として纏めた。 他にも、今まで調査してきた作品を整理することが出来、中世小説の挿絵と本文の関係について、多くの知見を得ることが出来て、沢山の収穫があった。 当然のことながら、これらの成果は、研究成果報告書として上梓する予定である。
|