本研究はわが国の風土で培われた文学者が環境としての自然をどのように捉え、その自然観が、その風土と文学の美的構造の中に息づき位置づけられているかを実証的に調査論及することが目的である。 わが国の近代文学を語る上で、新しい自然観との関わりの研究は重要である、わが国の文学と風土の関わりをまえ、その中で、風土的自然とその文学との関わりかたの典型的な状況を持つ地域例として、津軽・岩手・長野・金沢・松山などが挙げられる。これらの地は、単に多くの文学者の生誕の地というだけでなく、多くの文人たちがこの地を訪ね、文芸作品の舞台として描いている。その土地の風土的考察、その地で生まれた文学者はもちろん、その地を歩いた文人墨客の研究調査をし、実踏調査によってこれらの地の自然・歴史・文化を考察した。そして、学者にこの地の風土的自然がどのように映り、どのような自然観が培われていったかを調査した。わが国において著しく風土を異にする地域の自然・歴史・文化を取り上げ、土地ゆかりの文学者、文芸作品、地域住民の口承などをもとに、そこで養われる自然観を調べていくと、以下のことが浮き彫りになる。 明治維新以後、政治・経済・社会が急速に西洋の文化の影響を受けつつ近代化していく過程で、文学もその例外でなかった。古来、日本では人々を取り巻く自然が文学や芸術の題材となっており、詩歌や絵画において秀作を生み出してきている。しかし自然は作品を生み出すための対象にすぎず、科学的な自然研究の対象とはなっていなかった。西洋の近代的思想から自然に対する客観的叙述を学び、自然観察(客観的な観察)の上に新たな自然美を作品に展開していく思潮が生まれた。日本の伝統文化を継承していく一方で、西洋の近代文学の影響下、従来の文学とは違う新しい文学が生まれたといえる。その根幹に新しい自然観の確立があったと考えることができる。
|