『奈良絵本の基礎的研究』は、平成10年度から平成13年度にわたる、奈良絵本の基礎的研究の成果をまとめたものである。科学研究費補助金は、日本各地の図書館・美術館・博物館に所蔵される奈良絵本の調査と撮影に主に使用された。その調査を基礎資料として、各地の奈良絵本を比較した。すると、奈良絵本・絵巻の中に、同じ筆跡を有するものが相当数存在することが明らかになった。奈良絵本・絵巻は、詞書きを書く人間が署名することがきわめて少ないために、その筆跡が誰のものであるのかを決めることは難しい。しかし、私が日本文学作品が記された写本等と比較した結果、浅井了意と朝倉重賢が奈良絵本・絵巻の詞書きを書いていることが判明した。それ以外にも、奈良絵本・絵巻の筆者は存在しているが、名前までは明らかにできなかった。また、奈良絵本には、絵草紙屋と呼ばれる店の大福帳が貼り込まれていることがあり、それらの調査も行った。これらの研究により、奈良絵本・絵巻が、絵草紙屋の依頼で製作され、販売されていた様子が具体的に明らかになった。本書は、それらの成果を、私が個別に発表した論文を集成したものである。まだ、調査が途中のものもあるが、奈良絵本の筆跡による分類は、完成しつつある。奈良絵本・絵巻には、まだ調査が行われていないものも多数存在している。今後も、さらに調査地を増やし、さらには新たな奈良絵本の存在を確認して、奈良絵本の基礎的な分類を行い、研究を発展させたいと考えている。
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