当該年度の研究実績は、以下に個条書きするが、その最大のものは、亨保期の弘前藩江戸屋敷に、辰松八郎兵衛が来演している記録の発見であった。辰松八郎兵衛は近松門左衛門の作品に出演する当期の代表的な人形遣いである。この辰松八郎兵衛は、従来劇場への出演のみが知られていた。今回発見した弘前藩江戸屋敷への来演の記録は、従来の辰松八郎兵衛像に大きな変更を迫るものとなるだろう。 1.2回にわたり弘前市立図書館を訪館し『弘前藩庁日記』江戸日記享保中期の調査を行った。 当該期より日記の分量が倍増することが判明し、当初予定していた112冊の調査は、その三分の一の40冊にとどまった。この40冊分については歌舞伎・浄瑠璃関係記事を抽出し、補助者(アルバイト)による下翻刻を終えた。 2.沖縄県に出張しての組踊の大道具類の調査は、今年度は実施できなかったが江戸時代の資料(『琉球人行列記』)を購入し、文献調査を実施した。 3.上記の1・2が当初計画を下まわったのは、他の機関に所蔵されている資料に本研究に関連するものがあることが判明し、その調査に時日を要したためである。調査した機関は、高知県立図書館・京都府立総合資料館・大阪府立中之島図書館・新潟県佐渡郡「鳥越文庫」などである。 4.関連の研究発表として、平成12年5月20日「にわか懇話会」で「初代団十郎の俄」を口頭発表した。 5.「江戸の演劇空間-もう一つの劇場-」という一般向けの文章を執筆し、『武蔵野美術』117号(平成12年8月1日)に掲載した。
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