一九九八年十二月と二○○○年一月の二回に亙る訪台により中央研究院歴史語言研究所傅斯年図書館所蔵の「石印鼓詞」を調査し、その提要を、「石印鼓詞研究」其一、其二、其三と題し、本務校の『埼玉大学紀要教養学部』に中国語で発表した。なお「石印鼓詞」の存在がその『風陵文庫目録』から判明していた早稲田大学図書館の沢田瑞穂氏旧蔵本を調査し作成した提要と、神奈川大学鈴木陽一氏が南通で僮子戯を調査したおり、関係者からそのテキストとして贈与された石印本コピーの提要について同様中国語で提要を作成し、其三の付録とした。また以上の提要の解説を「中央研究院歴史語言研究所傅斯年図書館所蔵の「石印鼓詞」について-「石印鼓詞」と「童子戯」-」として『饕餮』に発表した。この解説において、「石印鼓詞」と南通(ならびに通州)の僮子戯との関係を全面的に論ずる一方、故中国復旦大学趙景深教授旧蔵本や『中国俗曲總目稿』著録本中の同類の書、既刊の複数の資料集所収本、さらには石印ではないがこれと同内容の鉛印本などを含む一覧表、傅斯年図書館では「石印鼓詞」に分類されないが「石印鼓詞」の可能性がある作品の一覧表などを作成し、これに付した。また鈴木氏より恵贈された『十三部半巫書』の解読により、南通の僮子戯が、天(孫悟空)水(三蔵法師)地(唐太宗)それぞれの死と再生とその後の三者による三位一体の西天取経(変形地獄めぐり)によって構成される『西遊記』の、とりわけ地の部分、すなわち唐の太宗の死と再生の成立に深く関わっていることが確信されるに至った。今後はこの方面に研究を集中させてゆく所存である。
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