本年度は、初年度ということで、まず末代の文学状況を明らかに把握する必要があり、中国における文学批評の最新の成果である、上海復旦大学編『宋金元文学批評史』(上海古籍出版社、1996年)の北宋、南宋部分の翻訳、注釈の作業に取り組んだ。その成果を3回に分けて発表した。また、北宋の文学の基礎を築いた欧陽脩の日本・中国・台湾における先行研究を京都大学人文科学研究所、東京大学東洋文化研究所等へ出向き調査を行い、更には中国の欧陽脩研究の中心ともいえる吉安師専廬陵人文研究室と連絡を取り合い、資料を網羅的に収集し、体系的に分類して「欧陽脩研究論著目録稿II(1987〜1996)」を作成した。ここには332項目の情報が収集されており、以前発表した「欧陽脩研究論著目録稿(1945〜1986)」(中国文学論集第16号、1988年)と合わせると総計673項目となり、ここ50年間の日本・中国・台湾における欧陽脩の研究状況を完全に掌握できることとなった。更に、10月には天理図書館、内閣文庫、静嘉堂文庫に赴き、版本調査を行い、来年度以降にそれらを整理して発表する予定である。 これらの基礎的調査、研究を踏まえ、本年度は欧陽脩の研究を中心に据えた。まず「欧陽脩の洛陽時代」と題して、彼が初めて任官した洛陽における活動状況を考察した。また、「欧陽脩と尹沫」の論文では、欧陽脩の古文の修得過程における尹沫の存在と欧陽脩の心の葛藤に視点を据えて考察を進めた。この論文は欧陽脩の古文運動を考察する際、その出発点を考える上で核心をなすと考えられる。今後は欧陽脩を中心に、北宋の古文運動の展開と科挙制度の関連を研究していく予定である。
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