研究概要 |
(以下の文で,満洲語の“〓"は“U"と表記することとする.) タングモイェンは清代中期を代表する満洲語読本である.智信なる人物が乾隆15年(1750)に作成刊行したと伝えられる.この読本には,あい異なる時期に作成された改訂本がいくつかあり,それぞれ百条の套話の配列を改め,各対話の字句を一部差し替えている.それらのうち,最も重要なのは次の5種であろう:1)tanggU meyen.《(清文)ー百條》,乾隆15年(1750)?,2)《清文指要》,乾隆54年(1789)刊,嘉慶14年(1809)重刊,3)《初学指南》,乾隆59年(1794)刊,4)《三合語録》,道光9年(1829)序,5)《語言自迩集》「談論篇百章」Tan-Lun Pien(談論篇),The Hundred Lessons,同治6年(1867)初版.ただし,1)は満洲語のみ(漢語は一部分の語彙に付される)に過ぎず,5)は2)《清文指要》の漢語部分のみを改編したものである.2)は満漢合璧体,3)は蒙漢合璧体,4)は満蒙漢合璧体.また,改訂本のそれぞれに異版が複数ある. いわゆる満漢資料のうち,満漠読本を利用する口語史の研究は,まだ緒についたばかりの段階にある.とりわけタングモイェン系の諸読本の通時的な比較は,太田辰夫・寺村政男氏の先駆的研究を除き,ほとんどなされていないようである. 1998年度は,《manju gisun oyonggo jorin bithe..(清文指要)》不分巻4冊,嘉慶14年(1809)重刊本,の百条套話をハードディスク上に蓄積したうえで,満洲語の‘cik'(「文」と「語」の中間の単位を示す「句号」)で区切られた「句」ごとに満漢両語を対照させるデータベースを作成した.読本の用例を「句」ごとに対照させる‘key words in phrases'形式での検索が可能になった,他の読本のデータ蓄積と通時変化の検討は,これからの課題としたい.
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