この研究の目的は概略的に言えば音韻理論における範疇の設定をいかにして行うかという問題を解明することであった。私は本年度に固有の課題として、言語音の強弱あるいは音韻過程の硬音化/軟音化という2分法に着目し、これらが極小化された音韻理論の体系によってどのように分析されうるかということを挙げた。 このような脈絡にあって本年度には次のような論文を執筆・公刊・発表した。論文1は、音韻理論の極小性を想定しつつ、自然言語の音韻過程のプロトタイプを抽出し分析したものであり、それらのプロトタイプはさらはSpread α およびStrengthen/Weakenαという二つの一般的な過程に極小化されていくと言うことを述べた。最適性理論のGENに関する仮定は理論的な反証可能性という点において問題を抱えている。その点では本論は二つの音韻過程へ限定しており、より科学的な反証性が高い。論文2は、極小性を想定しつつ、音韻的な強弱がいかなる形で捉えられる可能性があるかを考察したものであり、強弱がどのような音韻的な成分に還元されるかと言うことを述べたものである。第三の論文は、音韻論のディフォルトに関してTakahashi(1997)“Onthe Form of Default Rules in Phonology"において述べた「構造的変化の双方向性」の仮説を意味研究の領域に展開したものであり、身体部位の臨時的な道具化という言語現象は双方向性によって捉えられるような普遍性を示している。このような音韻論と意味論のデイフオルトの形式の共通性は、第4論文においてJackendoff(1997)の理論的な枠組みからの重要な帰結の一つであるという形でまとめられることになった.とくにその理論的な枠組みである、Tripartite Parallel Architecture内に、本論の音韻部門に関する主張が自然な形で組み込まれると言う可能性を指摘した。
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