研究概要 |
今年度は3年計画の2年目として、研究を進める上での基盤とするべく、これまでの理論の整理・検討とデータの収集を引き続き並行して進めた。生成文法においてこれまでなされてきた研究の中から、構造の不確定性との関連性を持つ統語構造に関する記述を抽出整理し、その理論的・経験的問題点を明確化した。さらに、Minimalist ProgramおよびOptimality Theoryに基づく理論的・実証的研究を検討し、その統語構造の取り扱いに関する問題点を整理した。また、現代英語の実際の言語資料により、本研究に関連し記述・説明されるべき種々の事実関係の調査を引き続き行った。 生成文法の枠組みでの統語論研究において、文の句構造の解明という課題の手立てとしてこれまでさまざまな構成素構造を調べるテストが用いられてきた。それらのテストを適用してみると場合によっては矛盾した結果が得られることがあるが、最近の研究ではそれらの一見矛盾した結果が生じないような統語構造の理論がいくつか提案されてきている。その中で特に注目に値すると思われるPesetsky(1995)のCascade syntaxとLayered syntaxという平行的な2つの構造をたてる理論、およびPhillips(1996,1998)のIncrementality hypothesisに基づく理論を取り上げ、Ushie(1994)以降私が提案してきている平行的多重構造を用いる仮説との比較検討を行った。その結果、文はひとつの派生段階では単一の統語構造を持つという、従来の統語分析で仮定されてきた確定的な統語構造観とは異なり、文はひとつの派生段階において単一の統語構造ではなく、複数の構造を同時に持つ可能性があり、それらの構造が相互に影響を及ぼしあう可能性を認める理論をたてる必要性をさらに確認した。
|