生成文法においてこれまでなされてきた研究の中から、構造の不確定性との関連性を有する統語構造に関する記述を抽出整理し、その理論的・経験的問題点を明確化した。さらに、最近の極小主義(Minimalist Program)および最適性理論(Optimality Theory)に基づく理論的・実証的研究を検討し、統語構造の不確定性との関連でその問題点を整理した。 名詞句内での照応表現であるoneがどのような部分を先行詞としてとりうるか、特に先行詞が表面上不連続であるような場合にどのような可能性が許されるのかを考えるとき、その条件として平行的な構造を考えることが有効であり、その点で統語構造の不確定性と密接な関係があることを示した。 生成文法の統語論研究においてさまざまな構成素構造を調べるテストが開発されてきたが、それらのテストの結果は必ずしも一致せず、場合によっては矛盾する結果が得られる。最近その結果が矛盾でなく生じるような統語構造の理論が提案されてきている。その中でとくに重要なPesetsky(1995)のCascade syntaxとLayered syntaxという平行的な2つの構造を立てる理論、およびPhillips(1996)のParsingを文法と同一視するIncrementality hypothesisに基づく理論を取り上げ、Ushie(1994)以降提案している平行的多重構造を取り入れる理論との比較検討を行った。その結果、PesetskyにせよPhilipsにせよ、いずれかの層の1つの構造あるいはある段階での1つの構造が、ある統語現象に関与すると考えているが、その1つの構造だけを考えていては不十分な説明しかできないこと、複数の構造が同時に存在し、それらの構造が相互に影響及ぼしあうことを認める理論を立てる必要があることを明らかにした。
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