第一世界大戦の帰結は矛盾を孕むものであった。かつてあった伝統の喪失にともない自信や権威が失われたと同時に、すべてを新規蒔きなおしできるという希望も生まれたのである。しかしながら、はたして真に新しいものとはなにかという点になると、なにものにも確言し得ないのであった。 そのいっぽうで、プルーストの大長篇小説『失われた時を求めて』の発表以来、記憶という問題、いかにして確固たる過去を再構築するかという問題が、文学にとって中心的なテーマとなった。 簡単にいうならば、あらゆる文化的範疇において第一世界大戦後に生じた重要な動きは逆説的なものにほかならなかった。旧来の西洋文化の残滓を放棄しようとする者は、畢竟、伝統的価値以外のよりどころはあり得ないという事実に逢着せざるを得なかったのである。この運動は一般にアヴァンギャルドもしくはモダニズムと称されている。通常の理解によれば、この運動は伝統の放棄もしくは伝統にたいする異議申し立てと考えられている。 しかし、本研究において明らかにされたように、瓦解、解体として語られる多くの出来事は、いま少し個別化して考える必要ある。その際に要求される方法論の厳密性についても検討を加えなければならない。第一次世界大戦は、伝統主義的社会の崩壊をもたらしたと一義的にとらえるのではなく、逆に多様な形態の伝統主義(そのうちのいくつかはナショナリズムに直結することになる)を誕生させる土壌となった。このような視点を踏まえることで、20世紀文化にかんしじゅうらいいだかれていた観念そのものを抜本的に見なおす契機が得られるではないだろうか。
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