研究概要 |
今年度は、古英語の派生名詞について下記の点を明らかにすることが目標であった。 (1) 形態論的分類:動詞から名詞を派生させる接辞に仕組みを明らかにする。 (2) 意味論的分類:派生名詞のもつ意味を明らかにする。接辞の違いによって、行為・行為者・結果・場所などの意味が、どのように使い分けられていたかを突き止める。 (3) 統語的な特徴:主語と目的語の具現のされ方、主要部と主語や目的語との位置関係、そして、動詞の項構造が、その派生名詞の項構造にどのように関わるかを明らかにする。 このうち特に、(3)の統語的な特徴を中心に調査した。古英語のテキスト、特にAelfricによるCatholic Homiliesをはじめとする著作を調査した結果、現代英語で、いわゆる項構造をもつComplex Event Nominalの読みをもつthe enemy's destruction of the cityに相当する形がなかった(少なくともその存在を示す積極的な根拠は見あたらない)ということが確かめられた。-ing,-ungの名詞についても,現代英語ではgerundive nominalと呼ばれ,Complex Event Nominalの性質を示すが,OEのing名詞は,その性質を示す例はほとんど見あたらないことが確かめられた。次年度に向けて、今後の課題として、OEの個々の動詞が取る項の格や統語範疇(例えば,PPを取る動詞など)に着目しながら、特に,与格と属格を取る動詞の派生名詞がどのような項の具現を見せたのかという点を明らかにせねばならない。
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