本年度の研究目標は、次の二点であり、それにそって以下のような研究実績をあげた。 1.母娘関係から照射したセクシュアリティ分析 (1)『思想』(岩波書店)誌上に2回にわけて論文を掲載した。内容は、フロイトや対象関係理論などの精神分析、エクリチュール・フェミニンの理論、母娘に関するフェミニズム理論を批判的に分析し、主体形成・言語生成・ジェンダー配置が相互に関連して、「母」「娘」のカテゴリーが再生産されること、そのさいに母娘の一次的関係の「忘却」が重要な因子であることを明らかにした。新聞誌上や専門誌で推薦論文として取り上げられ、高く評価された。 (2)日本英文学会のシンポジウム「フェミニズムの今」で、今世紀初頭のイギリス人作家ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』に焦点を当て、母が同時に娘でもあることを指摘して、母娘というカテゴリーの解体を論じた。これも新しい知見であると評価された。 2.社会構築性の理論の深化 (1)『思想』の4回目の論文として「アイデンティティ/差異の政治/美学」を執筆中である。社会構築のラディカルな理論がラディカルな政治にどう接続しうるかは、理論的にも社会的にも目下の世界的な関心事であり、そのフロントに切り込みたい。 (2)『社会構築主義について』(仮題)に掲載論文として、社会構築主義・本質主義・資本主義の相互関係を論じている。これは今年用意する著書のなかに組み入れるかもしれない。
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