本研究は、近代社会における性の非対称性が社会的な次元を超えて、個人のセクシュアリティまでもを構造化しているという前提で議論していくものである。セクシュアリティ研究は、アメリカ合衆国では90年代に入って、日本では90年代なかばより学問的主題となりはじめているが、そのさいに「同性愛」の可視性を中心に論じられることが多く、同性愛/異性愛の二元論そのものを脱構築し、かつ「異性愛」のセクシュアリティの構造までも踏み込んで論じる文献はきわめて少なかった。 本研究は、文学/映像におけるセクシュアリティ表象の研究とともに、セクシュアリティの布置そのものを理論的に解明していこうとするものであり、過去4年間の研究成果において、日本の文脈でのフェミニズムの意味を問い直し、かつフェミニズムをこえて、社会研究、政治学、思想、文学研究において、セクシュアリティの視座を持ち込みえたものと思われる。『思想』誌に連載した論文をはじめ、多様な媒体で発表した論文やインタヴュー、対談、解題、翻訳などは、精神分析、思想、哲学、政治理論、社会理論、言説理論を批判的に再読しつつ、セクシュアリティを消失点とする近代社会の構造を明らかにしようとした。その成果の一つとして、『フェミニズム』を2000年に上梓し、またここ数年における学術誌や啓蒙誌において、セクシュアリティ特集やフェミニズム特集のさいに中心的な役割を果たした。専門領域を異にする研究活動にも貢献したと思われる。
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