ダーウィニズムは、19世紀末アメリカにおいてじつに多様な展開を示した思想としてさまざまな作家たちに影響をあたえたが、本研究はそのような多様性を視野に収めながらも、基本的にはダーウィニズムがフェミニズムの思想と文学にたいしてあたえた影響を、フェミニズム作家としてのケート・ショパンとシャーロット・パーキンズ・ギルマンにしぼって研究した。とくに、(1)いかに当時のダーウィニズムが、19世紀後半の反フェミニズム的男性中心主義を科学的に支持するものとして機能していたか、そして(2)いかにフェミニズム作家としてのショパンとギルマンがそのようなダーウィニズムを読みかえながら、それを男性中心主義のイデオロギーを掘り崩す議論へと応用していったか、に焦点をしぼった。 1年目は19世紀末のダーウィニズムと反フェミニズムの関連を示す論文としてアラベラ・ケニーリの「母性の才能」という1890年代の科学論文をとりあげ、当時の「新しい女」のフェミニズムにたいして、いかに同時代の科学的言説がダーウィニズム(および物理学的なエネルギー保存則)に依拠しながら反フェミニズム的立場を構築していたかを研究した。その成果は論文「科学と女性問題」として公表されている。 2年目は『めざめ』を中心にしてケート・ショパンの小説を研究したが、論文としてまとめるにはいたらなかった。 3年目はC・P・ギルマンの『女の国』をテクストにして、彼女のフェミニスト・ユートピア思想においていかにダーウィニズムが受容されつつ批判されているかを研究した。それは「C・P・ギルマン『女の国』論のための覚え書」というタイトルのもと、本研究の研究成果報告書として公表された。
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