平成12年度は、まず、11年度に収集した、ポール・オースターとウォルター・アビッシュの作品と、それぞれの作家の批評を、精読した。特に、アビッシュに関しては、夏の広島大学アメリカ文学会で研究材料として取り上げ、様々な議論を聞かせてもらうとともに、秋の日本アメリカ文学会(同志社大学)で、How German Is Itを中心にした口頭発表を行った。日本ではアビッシュはまだあまり知られておらず、日本アメリカ文学会ではアビッシュに直接関わる示唆が少なかったことは否めないが、ポストモダン作品の研究の在り方に関連し、いくつかの貴重な意見を頂いた。 ふたつめに、11年度に進めていたソール・ベロー研究から、ハーツォッグの〈結婚と離婚を繰り返す〉生き方を取り上げ、サリンジャーの〈結婚しようとしない〉主人公、ズーイー・グラスや、フィリップ・ロスの〈どうしても結婚できない〉主人公、アレックス・ポートノイとの比較で、新しい個人主義的生き方を体現する主人公論を展開した論文を仕上げた。これは、『英語英文學研究』第45巻に掲載されるため、すでに印刷に入っている。 みっつめに、今年も引き続きサリンジャー研究を進めている。サリンジャーの象徴の使い方に注目し、初期作品全般に新たな読みを加え、サリンジャーの初期の主人公像を明らかにする論文を仕上げた。現在、後期の作品について、サリンジャーの主人公と80年代作家の主人公の比較を行いつつ、1950-1960年代主人公としての、サリンジャーの主人公の特徴を明確にしようとしている。 なお、9月には資料収集のため東京に赴いた。今回は特に、オースターやアビッシュを解釈する上で必要なポストモダン理論に関わるものを収集した。このような理論の理解は難解で、現在も様々な研究者と意見交換しつつ、理解を深めようと努力している。
|