研究概要 |
12年度は、米国カリフォルニア州立大学バークレー校バンクロフト図書館蔵ウォラス・アーウィン資料集の研究を引き続き行った。この資料によりアーウィンの学僕コラムは断続的ながらも長期に渡って書き続けられ、第二次大戦前後には、複数に分裂したことが判明した。アーウィンは従来のキャラクターであるハシムラ東郷を日本軍に参加させ中国戦線に送り、新キャラクターで日系二世「アーサー・タピオカ」を強制収容所に入れ、さらには腹話術師ヒットラーと学僕人形マック・東郷の対話劇シリーズを始めた。 今年度はこの他に日本ならびに日系社会にアーウィンがどのように受容されていたかを調べ、いくつかの興味深い結果を得ることができた。アーウィンの学僕コラムは1909年という早い時点からすでに日本外務省では排日のおそれありと疑問視されていたこと、1921年の排日小説『太陽の種子』以前には、加州日系社会では想像以上に好意的に受け入れられていたこと、その反動もあって『太陽の種子』については日本においても米国日系社会においてもきわめて悪質と受けとられたこともわかった。 さらに、アーウィンと同時期アメリカで活躍していた、ユーラシアン作家オノト・ワタンナの作品や、在米中学僕をしながら詩人としてデヴューした日本人作家ヨネ・ノグチの朝顔嬢小説をとりあげ、同時代のいわゆる日本ものの流行という文脈に対する研究も進めることができた。 なお『太陽の種子』を中心にアーウィンの米国日系社会との関わりを追いかけた拉論が近く論文集(南雲堂)に掲載される予定である。またこの科研費研究によって得られた成果をもとめ,単行本(作品社)として出版する予定である。
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