研究概要 |
科学研究費補助金によりカナダに赴くことができ、日本においてはなかなか情報の入りにくい日系カナダ文学が活況を呈している様子を知ることができるとともに、カナダにおける日系カナダ文学研究の状況教示、資料に関する情報などを詩人でもあるロイ・ミキ(サイモン・フレイザー大学)教授や作家のジョイ・コガワ氏をはじめとする人々より受けることができた。検索できたthe New Canadian、Books in Canada, Canadian Literatureなどの文献から文学作品、作品批評、マルティカルチュラリズム論文などを参考に、日系カナダ人作家の作品において意識されているエスニック・アイデンティティに関して分析・考察を行い、エスニック・アイデンティティの現われ方に特徴のある芸術家・作家に絞って論考を行った。ジョイ・コガワと並んでカナダにおいて取り挙げられることがあるものの、その全体像が見えにくいと言われていたロイ・キヨオカの日系カナダ人としてのエスニック・アイデンティティに対する複雑な思いを分析して、日系コミュニティとは一定の距離を置きながらも、「パウエル祭」に参加し続けたキヨオカのエスニック・アイデンティティの特徴を知ることができた。また、ヒロミ・ゴトウの作品を分析することによって、カナダのホスト社会で「他者」である日系人にとってアイデンティティの根幹にある主体の確立の必要性をゴトウが問題にしていることを明らかにした。また、若い世代の作家にとって、歴史上の収容所体験を意識することがみずからの日系人としてのエスニック・アイデンティティの選択に繋がり、その結果日系人の心に影響を与えている収容所の「記億」を作品のテーマとして選んでいることをケリー・サカモトと日系アメリカ人とみずからを規定するラーナ・レイコ・リズトの作品において分析した。
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