今年度はコットンとその周辺の聖職者と政治家を研究した。トマス・フッカー、トマス・シェパード、ジョン・ウィンスロップが主な対象であった。コットンと同時代に生きた植民地第一世代の彼らがアメリカを建国するに至った決意を、英国にさかのぼり調査し、彼らが1630年にマサチューセッツ湾植民地を創設した時のボストンの様子を、地図を使用して詳細に調査した。 その中でも重要な主題は、新大陸の土地の取得であった。聖職者と政治家はアメリカに移住するに際して、土地をインディアンから取得したが、彼らは土地の取得の正当化に苦心した。聖職者はアメリカという「空白の土地」は選民に与えられると神学的理論を展開し、政治家は現実問題として統治と防御がしやすいボストンを政府の中心として選んだ。コットンは英国で行なった説教『植民地への神の約束』(1630)において、そしてウィンスロップは『ニューイングランドの植民に関するウィンスロップの結論』(1630)で、新大陸の土地の取得の正当性を擁護した。一方、コットンとライバル関係にあったフッカーのコネチカット移住の主たる原因は、土地と主導権をめぐる競争であった。表面的には順調なマサチューセッツ湾植民地は、最初の10年間は不安定であり、内部の権力争いは表面下で、外部との争いはインディアンとのピーコット戦争に表われていた。 本研究の初年度は、理想的に見える民主主義的教会運営とエリートたちが腐心した土地への執着を、英国からの渡航記、ボストンの地図、神学者の説教と自伝、教会の回心体験告白などの資料を通して明らかにした。 平成11年度は350年ぶりに出版が予定されているコットンの書簡を中心に彼の交友関係をさらに深く探求し、マサチューセッツ湾植民地だけでなく、同時代の英国のピューリタン革命やオリバー・クロムウェルとの親密な関係を明らかにする予定である。
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