バーミンガムを中心にグレン・パタソン、ディアドラ・マドゥンといった現代作家の作品を読み、研究成果を公にした。7月にはダブリンのIASIL国際大会にてパタソンのFat Lad(1992)に関する口頭発表を行った。彼はユニオニストとの誤解を受け易い作家だが、Fat Ladはシンボルとメタファーを有効に駆使して、ユニオンズム、ナショナリズムを超えた、北アイルランドの新たなアイデンティティーを模索した作品である。10月にはIASIL日本支部大会にて、マドゥンのHidden Symptons(1986)とOne in the Darkness(1992)に関する口頭発表を行った。前者は、タイトルの期待に反して、社会性にかける作品との批判を受けているが、実際には、個人の悲劇の描写を通して、世界中の紛争悲劇に通じる普遍性を備えた作品である。12月には、日本アイルランド協会年次大会にて、再びパタソンのBlack Night at Big Thunder Mountain(1995)に関して口頭発表し、北アイルランドを国際的視野から描き、「融和」の可能性を示唆した画期的作品であることを示した。マイケル・パッカーが「パタソンとバーミンガムの作品を読み比べてみる価値がある」と指摘している。ふたりの比較研究が今後の課題である。
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